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宇都宮地方裁判所 昭和35年(ワ)289号 判決 1963年6月03日

原告 亡吉沢金六承継人 吉沢貞子

被告 株式会社菊池組 外一名

主文

一、被告等は連帯して原告に対し、金七〇、〇〇〇円、及びこれに対する昭和三五年一二月二八日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払わなければならない。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は二分し、その一を被告等の負担とし、他を原告の負担とする。

四、この判決は原告勝訴の部分につき、原告において金二〇、〇〇〇円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告等は連帯して原告に対し金五〇二、二七〇円、及びこれに対する昭和三五年一二月二八日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決と仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

(一)  被告株式会社菊地組は砂利土砂の販売業を営む者であり、被告長島英は被告会社に雇われて自動車運転の業務に従事する者である。

(二)  被告長島は被告会社使用のダンプカー(栃一す第一七七三号)を運転して砂利運搬業務に従事中、昭和三五年五月八日午前八時五〇分頃、宇都宮市簗瀬町七の一一四番地先県道上を西から東に向い時速五五粁位の速度で進行し、原告の居宅から一〇〇米位手前に差しかかつた際、先行する小型乗用車を追越そうとして運転を誤り、道路左(北)側の原告先代所有の別紙目録第一記載の建物に、表から自動車の中央部まで屋内に突入させ、よつて右建物とその西側の石垣を破壊し、壁土の埃と木材の破片で空襲のような損害を与えた。

(三)  被告会社は、原告側の請求により、右建物の破損個所に若干の修理を加えたが、右建物は柱、梁、壁等に狂いを生じ、如何に修理しても到底元通りに復することができず、原告側は右事故により別紙目録第二記載のとおり金三〇二、二七〇円の損害を受けた。なお原告先代は、右事故により精神的に非常なシヨツクをうけ、吹きさらしの家に眠れぬ幾夜を過し、修理や損害賠償の交渉に約半年を費し、未だに原状に復しない精神的苦痛と焦躁に対する慰藉料は金二〇〇、〇〇〇円を相当とする。

(四)  よつて加害者たる被告長島及びその使用者たる被告会社に対し、連帯して右合計金五〇二、二七〇円と、これに対する本訴状送達の翌日たる昭和三五年一二月二八日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるもので、原告先代金六は本訴訟の途中において昭和三七年五月二六日死亡し、原告が相続によりその地位を承継したものである。

と述べ、

被告等の主張を否認した。(証拠省略)

被告等訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、

請求原因に対する答弁として、

(一)  第一項は認める。

(二)  第二項中、被告長島が被告会社使用のダンプカーを運転して砂利運搬の業務に従事中、原告主張の日時場所において、原告主張の石垣及び建物に衝突し、破壊損害を加えたことは認めるが、その余は争う。

(三)  第三項中、被告会社が原告側の請求により右建物を修理したことは認めるが、その余は争う。

(四)  第四項は争う。

と述べ、

被告等の主張として、

(一)  右事故発生直後、被告会社代表者は会社の従業員と共に現場に赴き、被害の状況を調査したが、その際原告側に被害を確めたところ、鶏とかヒヨコとか卵や籾種その他の細かい雑品の損害については何の話もなく、実際かかる被害も見当らなかつた。

(二)  被告会社では早速仲裁人会沢利次郎を仲に立てて原告側と交渉した結果、建物を修理してくれればよいとの示談がまとまり、被告会社では別紙目録第三記載の計算書のとおり、大工その他を頼んで修理をなしたうえ引渡したもので、これに対して原告側から何の異議もなかつたのである。しかも右修理をするについては、原告の希望どおりその指図に従つて修理したもので、元来この建物は相当古く、家そのものが歪み戸障子の立つけも悪くなつていたが、修理の結果却つてよくなつたもので、価格の減少は存しない。従つて今更本訴請求をするのは失当である。

と述べた。(証拠省略)

理由

(一)  被告株式会社菊地組は砂利土砂の販売業を営む者で、被告長島英は被告会社に雇われ自動車運転の業務に従事している者であること、被告長島が被告会社使用のダンプカー(栃一す第一七七三号)を運転して砂利運搬の業務に従事中、昭和三五年五月八日午前八時五〇分頃、宇都宮市簗瀬町七の一一四番地先県道上を西から東に向つて進行中、原告側所有の石垣及び建物に衝突し、これを破壊損害を与えたこと、及び被告会社が原告側の要求により右建物の破損部分を修理したことは当事者間に争いがない。

(二)  よつて先ず、右自動車の衝突事故により原告側が蒙つた損害のうち、被告会社が修理した部位程度を検討するに、成立に争いのない甲第一ないし第四号証、被告会社代表者菊地喜久男の供述によつて成立が認められる乙第一ないし第八号証(但し第一、第四、第五号証は各一、二)証人大塚永六郎、同高村初太、同吉沢貞子、同青木美佐治、同柿沼武、同大谷操の各証言、被告本人長島英、被告会社代表者菊地喜久男の各供述、現場検証の結果、鑑定今宮井良助の鑑定の結果を綜合すると、右衝突事故の直後、会沢利次郎、高村初太の両名が仲に入り、原告先代吉沢金六と被告会社代表者菊地喜久男が話合つた結果、取敢えず被告会社の責任において建物の破損個所を早急に修理復元することになり、これが修理にあたつては、従来使用されていた材料のうち使用し得るものは使つてもよいが、新しい材料を用いる場合には従来のものと同一程度の品質の材料を使用すること、材料代及び修理に要する費用は一切被告会社が負担するという約束のもとに、被告会社では大工青木美佐治、鳶職柿沼武、その他左官、畳屋などを頼んで、次のような修理をしたことが認められる。

(1)  右建物の表西側の戸袋が倒れて、戸袋と雨戸八枚が破損したが、この戸袋と雨戸八枚を前と同様の材料を用いて全部新しくした。

(2)  戸袋傍の柱と表側真中の柱が折れ、表東側の柱が沓石から外れたが、折れた柱二本は前と同様の五寸角の桧材を用いて入替え、表東側の柱は元通り沓石の上に据直した。

(3)  表側の柱によつて支えられていた欅材の指物(鴨居)が下にさがり、且つ右鴨居の縁が数個所破損したのを、鴨居を取外して原告側諒解のもとに破損個所に埋木をし、表面を削つて元通りに入れた。

(4)  表側の霧除け(庇)が下へ湾曲したのを、押上げて元通りに直した。

(5)  表側の硝子戸五枚が破損したのを、前と同様の材料を用いて全部新しくした。

(6)  表内側の鴨居の上の吊束二本が破損し、鴨居の上部の壁約三坪半が落ちたのを、吊束二本は新しいものを入替え、落ちた壁は塗り替えた。

(7)  表土間の東内側の鴨居の上部の壁が二、三個所破損したのを補修した。

(8)  表店の間(四畳)の南側の欅材の縁ブチが折れ、東側の縁ブチが外れ、床板と畳四枚が破損したのを、折れた欅材の縁ブチは当時同様の材料を入手することが出来なかつたので、原告側の諒解を得て桧材を使用し、縁ブチと床板を全部組直し、畳四枚は新しいものを入替えた。

而して以上の修理は、原告側の要求と右建物を前に建築した大工大塚永六郎の指示助言に基いて為されたもので、修理は良心的になされ、以前の状態と略同程度に復元され、被告会社では右の修理に八八、二二〇円を費したことが認められる。

(三)  ところで原告は本訴において、前記修理によつて弁償を受けた以外の損害の賠償を請求し、これに対して被告側では本件事故による損害については、当事者間に建物の破所損個を修理してくれればよいとの示談が成立し、被告会社は右示談契約に基いて建物の修理を完了し、原告側でも当時別に異議を言わなかつたのであるから、右修理以外の損害賠償を求める本訴請求は失当であると抗弁するので、この点を判断するに、証人高村初太、同吉沢貞子、同青木美佐治、同大谷操の各証言と、被告会社代表者菊地喜久男の供述を綜合すれば、前述のように、本件事故が起つた直後、会沢利次郎と高村初太が仲に入つて原告先代吉沢金六と被告会社代表者菊地喜久男が善後策について話合つた際、取敢えず被告会社の責任において早急に建物の破損個所の修理をする、修理にあたつては従来の材料のうち使用出来るものは使用し、新しい材料を用いる場合には従来のものと同様の品質の材料を使用する、材料代及び修理に要する費用は一切被告会社が負担する、との話合が成立したことは認められるが、それ以外の損害は請求しないとか、或はこれを免除するというような話合が成立した事実は認められず、これに反する被告会社代表者菊地喜久男の供述部分は採用しない。

そうすると、右修理によつて弁償した以外にも、他に損害があれば、被告等はその損害を賠償する義務があると言わねばならない。

(四)  而して原告は、右修理によつて弁償を受けた以外の損害として、別紙目録第二記載の損害と、本件事故によつて蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料を主張するので、以下この点について判断する。

(1)  証人吉沢貞子、同高村初太の各証言と、成立に争いのない甲第二号証、及び弁論の全趣旨を綜合すると、右事故によつて、別紙目録第二記載の物件中、

(イ)  原告方の表土間に置いてあつた鶏の飼料(二種混合、ふすま魚粉等)、籾種などに硝子の破片が入つて使用不能になり、

(ロ)  同様右土間に置いてあつた鶏育生箱が破損し、ヒヨコ約二〇羽がその後死んだり又は廃鶏になり、

(ハ)  表店の間に置いてあつた鶏卵約三貫五〇〇匁が潰され、

(ニ)  同様店の間に置いてあつた座机とその周囲の帳場格子が破損し、

(ホ)  石垣の大谷石一〇本位が割れたり又は耳が欠けたりして破損し、

(ヘ)  近所の人達が見舞に来たので、炊出しや食事を出して接待費を支出し、

(ト)  右建物を前に建築してもらつた大工大塚永六郎に来てもらつて修理についての指示助言を求め、また知合の増淵元吉が手伝に来て石垣を直してくれたので、これらの人の謝礼に幾何かの出費を要し、

(チ)  建物修理のために来ていた職人にお茶や茶菓子を出したためその費用を支出し、

(リ)  更に会沢利次郎と高村初太に頼んで、何回も被告会社と損害賠償の交渉をしてもらつたため、幾何かの費用を要し、

たことが認められ、これらは本件事故によつて原告側が蒙つた損害ということができるけれども、その損害額は具体的に明かではない。

(2)  なお、証人大塚永六郎、同吉沢貞子の各証言と、現場検証の結果、鑑定人宮井良助の鑑定の結果によると、本件建物は昭和一二年頃建築されたもので、事故のあつた昭和三五年五月八日までに二三年を経過していたが、建築材料は非常に良質の桧や欅を用いて手堅く建てられているため、本件事故によつて、道路に面した表側入口及び店の間は大破したにも拘らず、他の部分の被害は最少限度にとどまり、店の間と次の六畳の間との境にある柱と鴨居の継ぎ目にいくらか隙間ができ、家が幾分歪んだ程度で、これらは修理を要する程のものではなく、また本件事故によつて直接破損した部分の修理は良心的になされ、取替え分の柱、吊束、戸袋、雨戸、硝子戸とも乾燥の上等材を使用して仕口も入念に仕上げてあり、唯表入口上部の欅材の鴨居が取外した際幾分反つたため、内側の鴨居の上部に取付けられた吊束が幾らか歪んでいる程度で、修理復元としては相当の出来上りであることが認められる。

然しながら如何に入念に修理しても元通りの状態にはならないもので、右事故による本件建物の歪み等の状況を勘案して建物の価値減少を判断すると、

(イ)  事故によつて直接被害を受けた表側の六坪七合五勺の部分の価値減少については、入口の鴨居その他柱壁にも損傷亀裂が生じた個所があるので、その損害は二、四三二円と計上され、

(ロ)  間接的に被害を受けたと思われる裏側の二一坪二合五勺の部分の価値減少については、建物の歪みは経過年数による自然的な歪みによるものが大部分で、そのほか鴨居と柱の継ぎ目に若干の隙間が生じていることが認められるので、その損害額は七、五一七円と計上され、

(ハ)  更に表店の間の南側の縁ブチを欅材から桧材に取替えたことによる価値減少は二、一六〇円と計上される。以上のように、右事故によつて本件建物が受けた価値減少は前記(イ)(ロ)(ハ)の合計金一二、一〇九円であると認められ、それ以外には、建物の歪みを直したり、壁全部を塗替えたりする必要はないものと認められる。

(3)  而して既に述べたように、前記(1)の損害額については、具体的にこれを明かにする資料が存しないのであるが、弁論の全趣旨と当時の物価その他の事情を勘案して、(1)(2)右の損害の合計額は金四〇、〇〇〇円と算定するを相当と考える。

(4)  なお証人吉沢貞子、同高村初太の各証言と弁論の全趣旨を綜合すると、本件事故は原告方で朝食をすませた時に突然被告長島運転のダンプカーが原告方の店先に飛込んで起つたものであり、右事故による驚愕と、建物の表側が大破され、その修理が終るまで二〇日間も表の雨戸を締めることも出来ないでいた精神的苦痛などを考慮すると、原告先代が本件事故によつて蒙つた精神的打撃に対する慰藉料は金三〇、〇〇〇円を相当と考える。

(5)  而して本件記録に添付されている戸籍謄本と弁論の全趣旨によると、原告先代吉沢金六は本訴訟が繋属中昭和三七年五月二六日に死亡し、原告吉沢貞子が相続人として先代の前記損害賠償並びに慰藉料請求権を相続したことが明かである。

(6)  一方、本件事故は被告長島英の過失によつて生じたもので、被告長島は被告会社に雇われ、被告会社の業務に従事中に本件事故を起したものであることが明かであるから、被告会社と被告長島は連帯して右損害を賠償する義務がある。

(五)  そうすると、原告の本訴請求中、被告両名に対し連帯して金七〇、〇〇〇円及びこれに対する本訴状送達の翌日たる昭和三五年一二月二八日以降完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は、理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用は民事訴訟法第九二条に則り、これを二分して、その一を原告負担、他を被告等の負担と定め、なお同法第一九六条により、原告勝訴の部分につき仮執行を許容し、主文のとおり判決する。

(裁判官 石沢三千雄)

別紙

目  録

第一、建物

宇都宮市簗瀬町一一四番

同町家屋番号第五一二番

一、木造瓦葦平家建店舗 一棟

建坪 四二坪六合

第二、損害(未だ弁償をうけないもの)

飼料、オールマツシ、三袋          二一六〇円

〆粕、一叺                 一八〇〇

二種混合飼料                 五六〇

初ヒナ用飼料                 八〇〇

自家配合                   七〇〇

籾種、二斗三升               二三〇〇

鶏卵、三貫五〇〇匁             二四五〇

机                     三五〇〇

硯筆等                   一〇〇〇

鶏育生箱、一個               三〇〇〇

自転車                    四〇〇

接待用ソバ、一五個              六〇〇

大工手間、二人半分             一五〇〇

カシラ、二人分               一〇〇〇

茶菓子代、六〇日分             三〇〇〇

休業費、二人六〇日分           三六〇〇〇

石囲尺角、一〇本破損使用不能        二五〇〇

同、一〇本角破損半値            二〇〇〇

欅指物、二丁               四〇〇〇〇

縁ぶち材、一丁、欅を檜に替えた差額    一七〇〇〇

家屋ゆがみ壁割れ塗かえ、一〇坪       八〇〇〇

建物の傾きおこし、三人二日分        三六〇〇

カモイ、シキイぬけ直し、二人分       一二〇〇

仲介者交渉、二〇回分            六〇〇〇

ヒヨコ一〇羽(事故死亡)          五六〇〇

鶏一〇羽(事故廃鶏)            五六〇〇

小計                 一五二二七〇

建物の柱梁壁等の損傷歪みによる価格減少 一五〇〇〇〇

合計 三〇二二七〇円

第三、計算書(被告側弁償分)

支払先     種別     金額

青木美佐治    大工手間  二一〇〇〇円

大関硝子店    ガラス代   四〇一三

柿沼武      鳶手間    二七五〇

羽下一二     トタン修理   九〇〇

安納善治     畳代     二四〇〇

石川木工所    建具代   二九四七〇

池田製材所    材木代   一七六九〇

町田左官店    左官代    二八〇〇

鈴木政次外一五人 人夫手間賃  七二〇〇

合計            八八二二〇円

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